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総婦長の玲子(鷲尾真知子)が来月に迫った救急救命士の資格試験の受験者を募った。
「こんなにクソ忙しいのに、試験なんて!」 冴(財前直見)は鼻先で笑った。 「看護婦を一生の仕事だと自覚している人には受験を勧めるよ。」 公平(吉田栄作)の一言で冴はガラリと態度を変えた。 「私、受験します。」 いつものこととはいえ、恵子(横山めぐみ)とまゆみ(安西ひろこ)は呆然となった。 萌子(星野有香)の妹、亜沙美(清水千賀)が急患で運び込まれてきた。軽い貧血だったが、萌子のたっての希望で入院することになった。両親を早くに亡くした萌子は姉妹どちらかが医師になると誓った。 「うちは駄目やったけど、亜沙美なら医学部へ絶対に行ける。立派なお医者さんになってや。」 週末には大学入試の模試テストが控えている。万全の体調で受けさせてやりたいと、妹思いの萌子が入院を強引に決めたのだ。 |
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「へえ、あんたの妹が医学部ねえ。」 「妹はデキが違うんです。」 冴がからかうと、萌子はムキになって怒った。どんな自慢の妹なのか、冴は亜沙美の病室に、顔を出してみた。 「あんた、良い姉貴を持って幸せだよ。萌子とは友達だから、あんたともヨロシク。」 冴から手を差し出したというのに、亜沙美は握手しようとしない。 「私、あなたとなんか友達になりたくありません。出ていって下さい。」 冴はけんもほろろに追い出された。 「萌子の妹だから仲良くやろうと思ったのにさ。」 その夜、冴が母親のあき(夏木マリ)と五郎(坂田聡)を相手にグチをこぼしていると、携帯電話が鳴った。 「助けて、看護婦さん。」 「誰?もしもし。」 しかし返事はなく電話は切れた。 「行ってみる!」 冴は深夜の病院へ向かった。 冴が裏口から入ろうとすると、足元に女性物の財布が落ちていた。何気なく拾って、真っ暗な廊下を進んでいくと、突然懐中電灯の光を顔に当てられた。悲鳴が響き、やがて廊下の灯りが点いた。夜勤の恵子だった。 |
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「どうしてこんな時間にいるのよ。」 「それは電話があって。」 そこへ入院患者の駒田(田根楽子)が血相を変えてやって来た。 「あたしの財布が盗まれたのよ!」 冴の持っていた財布を見て、駒田が叫んだ。 「それよ!まさか、あんたが盗んだの?。」 「冗談じゃないわよ。」 いつしか廊下は騒ぎを聞きつけた患者でいっぱい。恵子は冴と駒田をナースステーションの中へ連れて行った。 「みなさん、病室へ戻って下さい。」 患者たちの一番後ろで、小さく微笑んでいる亜沙美の姿に気づいた者は、誰もいなかった。 あの電話は騒ぎを起こすために、わざわざかけてきたものではないか。翌朝、冴は恵子に昨夜、廊下の公衆電話を使っていた者がいなかったか聞いた。 「そんなの分かんないわよ。」 「それじゃ、私が困るのよ。」 2人が言い争っていると、萌子が駈けてきた。 「静かにして下さい。昨夜もうちの妹、えらい迷惑したんですよ。模試テストに響いたら、どうしてくれるんですか!」
萌子のすごい剣幕に、冴は返す言葉もなかった。 |
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模試テストまであと2日。萌子は久美子(京野ことみ)に無理やり家庭教師を頼み込んだ。 「高い入院費を払ってんのよ。これぐらいのサービス、あってもええやろ。」 呆れ返る春子(幸田まいこ)とかなえ(宮川由紀子)などお構いなし。萌子の頭の中にあるのは亜沙美のことだけ。 冴は一樹(剣太郎セガール)から携帯電話を手渡された。さっき一樹の病室に亜沙美がやって来て、落としていったという。 「あの女の子、すごく心が痛んでいるようで、それがとても心配なんです。」 携帯電話があれば、消灯後でも病室からかけることができる。 「これ、私が返しておきます。」 冴はすぐに亜沙美の病室に向かった。 「病院じゃ使っちゃいけないんだよ。そういえば昨夜、私に悪戯電話してきたヤツがいたんだ。」 しかし亜沙美は知らんぷり。そこへ萌子が入ってきた。 「この人、夕べの騒ぎで、私がお姉ちゃんに告げ口したのが気に入らないの。」 「な、何言ってんだよ。」 萌子は妹の言葉を信じた。 「先輩のこと、見損ないましたわ!今後一切あんたとは口ききません。最低や!」 冴は病室から追い出されてしまった。 |
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久美子あてに豪華な花束が次々と届いた。 「何かの間違いじゃ。」 久美子が首をひねっていると、花屋が冴の名前を呼んだ。 「これ、請求書です。電話で注文されたの、あなたですよね。」 「えっ?」 冴は全く身に覚えない。 花束だけでは済まなかった。ピザ、お寿司、天ざるがそれぞれ20人分ずつ届けられた。どれも冴が注文したことになっていた。こんな悪戯をするのはアイツしかいない。 ナースステーションを飛び出した冴は、亜沙美の病室に向かった。 「私のどこが気に入らないのか知らないけど、文句があるんなら、面と向かって言いな。」 亜沙美がとっさに隠そうとした携帯電話を冴が取り上げた。 「嫌いなのよ、友達って言葉、平気で使う人が!」恵子とまゆみも亜沙美の激しい怒りに驚いた。 「まさか、先輩の名前を使ってお花を注文したり、ピザを頼んだのはあなただったの?」 亜沙美が黙っていると、萌子が血相を変えて食ってかかってきた。 「この子はそんなアホみたいな悪戯する子やありません。妹はうちの宝なんです。将来は医師になってくれる。それがうちの夢なんです。明日は模試テストです。出ていって下さい。」 萌子は亜沙美を抱きしめた。冴は何も言えなかった。 翌朝、冴がまだ自宅でまどろんでいると、携帯電話が鳴った。 「もしもし?」 相手は一言も発しない。 「あの子!」 冴は病院に駆けつけた。宿直は萌子。 「妹は?一緒に来なよ。確かめる。」 「今日は大事なテストです。妹の睡眠を邪魔しないで下さい!」 病室の灯りを点けた。床には破られた参考書が散乱している。そしてベッドに亜沙美の姿はなかった─。 |
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